水と氷と包接水和物

私の生活にかかせない水や氷のもつ奇妙な性質がどうして生まれるのか、そのしくみを明らかにします。

理論と分子シミュレーション

統計力学理論と計算機シミュレーションを駆使して、実験では見えない現象を調べ、実験に先がけて物質の性質を予測します。

身近な謎をときあかす

氷はなぜ水に浮くのか、地球が温暖化しても海があまり膨張しないのはなぜか、メタンハイドレートはなぜ海底でみつかるのか。 問いが簡単だからといって、答も簡単とは限りません。

岡山化学展にブース出店しました

2025 年 8 月 8 日〜10 日に岡山タカシマヤで開催された、‘25 岡山化学展 「おもしろワクワク化学の世界」(日本化学会中四国支部主催・徳山科学技術財団共催)に、「見えないつぶつぶ大発見! 分子模型を作ろう!」と題し、子供たちにいろんな分子を紹介し、自分で組みたててもらうブースを出店しました。 のべ 432 人のこども達が、いろんないろやあじのもとになっている 50 種類の分子を組みたてて楽しみました。なお、一番人気は、塩化ナトリウム(塩の結晶)、次点がトリニトロトルエン(某ゲームで TNT の名で有名)でした。 ブースに来ていただいた方のために、当日のパンフ(分子カタログ)を置いておきます。夏休みの宿題の参考になれば幸いです。 かんたん ふつう たいへん からだ くすり たべもの あじ におい こうぎょう かたち きけん

氷T2が合成された! (東京大学)

さまざまな温度・圧力範囲で、氷にはこれまで 20 種類以上の結晶構造が発見されています。これは純物質としては異例に種類が多いと考えられています。そのうち、20 世紀までに発見されたものは 12 種類、残る 8 種類は 21 世紀以降であり、驚くべきことに、発見のペースが加速しています。 今年の年初に合成が報告されたプラスチック氷に続き、我々のグループが 2018 年に予測した、氷 T2 の合成に成功したとの報告がありました。 氷 T2 は、計算機シミュレーションで高圧の水を冷やすことで生じる新しい氷で、結晶構造が極めて複雑です。我々はシミュレーションの過程で偶然この構造を発見しましたが、その温度圧力条件は本来なら氷 VI や氷 VII が生じる範囲であったため、このような氷を実際に作れるかどうかは疑問でした。 今回、東京大学の小林らの研究チームは、超高圧で水を過冷却(融点よりも低温まで液体のままで冷やすこと)する新しい技術を用いることで、氷 T2 と、さらに 2 つの新しい氷を発見しました。順当にいけば、これらの氷は氷 XXI (21)、XXII (22)、XXIII (23) と呼ばれる見込みです。 シミュレーションと実験、どちらが次の氷を先に見つけるのでしょう。氷の結晶構造は、今世紀末までにいくつまで増えるのでしょう。我々の予測した、ほかの氷ももしかしたら合成されるかもしれませんね。 小林らのプレプリント(ArXiv): Hiroki Kobayashi, Kazuki Komatsu, Kenji Mochizuki, Hayate Ito, Koichi Momma, Shinichi Machida, Takanori Hattori, Kunio Hirata, Yoshiaki Kawano, Saori Maki-Yonekura, Kiyofumi Takaba, Koji Yonekura, Qianli Xue, Misaki Sato, Hiroyuki Kagi; New metastable ice phases via supercooled water; https://arxiv.

研究室に新しいメンバーが加わりました

本日より、4 年生の渡辺君、岡澤さんが研究室の新たなメンバーに加わりました。共にサイエンスを楽しみましょう。

中間発表会が開催されました

3 月 4 日に岡山大学大学院 環境生命自然科学研究科物質科学基礎講座(化学系)の中間発表会が開催されました。中間発表会は、修士一年が終わる時点での研究の進捗を確かめ、今後の方向性を探る機会として、ポスター発表形式で 3 時間にわたるディスカッションバトルが繰りひろげられます。本研究室からは M1 の向原君と河原君が発表しました。分野の異なる研究者や学生との質疑から、良い着想が得られたのではないかと思います。ご苦労さまでした。

卒業論文発表会が開催されました

2 月 28 日に岡山大学理学部化学科の卒業論文発表会が開催され、本研究室からは B4 の内藤君、佐々木君、藪林さんが発表を行いました。はじめての研究発表で緊張したと思いますが、質問(本研究室のテーマはわかりやすいので質問が多い傾向があります)にも堂々と答えていました。ご苦労さまでした。 (図は佐々木君の研究であつかったモデル氷と水素イオンの配置です)

プラスチック氷が合成された! (ローマ大学)

本研究室の前身である田中グループが 2008 年に予測した、プラスチック氷(柔粘性氷)が、実在することが確認されたようです。 超高圧で生じる氷 VII は非常に硬いと言われていますが、これを加熱すると、結晶が崩壊する前に、水分子が自由に回転できる、とてもやわらかい結晶(かろうじて壊れてはいない)になります。この状態をプラスチック氷(柔粘性氷)と呼びます。 本研究室では、プラスチック氷について、これまでさまざまな角度からその物性を理論的に予測してきましたが、今回その実在が確認されたことで、ほかの物性についても検証が進むと思われます。 Nature 誌記事 Rescigno, M., Toffano, A., Ranieri, U., Andriambariarijaona, L., Gaal, R., Klotz, S., … Bove, L. E. (2025). Observation of plastic ice VII by quasi-elastic neutron scattering. Nature. DOI:10.1038/s41586-025-08750-4 カラパイアでの紹介記事 最初の報告 Takii, Y., Koga, K., & Tanaka, H. (2008). A plastic phase of water from computer simulation. The Journal of chemical physics, 128(20), 204501. https://doi.org/10.1063/1.2927255 続報 Himoto, K., Matsumoto, M., & Tanaka, H.