水素無秩序氷の異常な均質性とその起源について
水素無秩序氷の中では、ひとつひとつの水分子はさまざまな方向を向いており、ある水分子と周囲の水分子の間の相互作用は引力(相互作用エネルギーが低い)の場合も斥力(同・高い)の場合もあります。ある水分子と、周囲の多数の水分子の間の相互作用は、すぐ近くにいる水分子の向きに最も大きな影響を受けそうに思えます。ところが、実際には、近くの水分子の向きが引力的であっても斥力的であっても、周囲すべての水分子との相互作用はほぼ同じ値になることが計算と実験から明らかとなっています。まるで、近距離にいる分子と遠距離にいる多数の分子が、互いに申しあわせて、全体としていつも同じエネルギーになるように調節しているように見えますが、そんな調節機構がどうやって氷の中に組み込まれているのでしょうか。これを謎解きしたのがこの論文です。
Matsumoto, M., Yagasaki, T. & Tanaka, H. On the anomalous homogeneity of hydrogen-disordered ice and its origin. J. Chem. Phys. 155, 164502 (2021) https://doi.org/10.1063/5.0065215