CCS のための流体 CO2 中の水溶解度:分子論からの理解

我々のグループの新しい論文が出版されました。

工場や発電所から回収した CO2 をパイプラインで運び、地中に貯留する——CCS(CO2 回収・貯留)では、CO2 に混じるわずかな水が厄介者です。水が溶けきれずに析出すると、CO2 ハイドレートという氷のような固体ができてパイプを詰まらせたり、炭酸を含む水が配管を腐食させたりします。どんな温度・圧力なら、CO2 はどれだけの水を抱えていられるのか。輸送・貯留で出会う条件は気体から液体、超臨界まで幅広く、実験だけで網羅するのは容易ではありません。

本研究では、分子間相互作用から水の化学ポテンシャルを計算し、流体 CO2 中の水の溶解度を、CO2 の輸送・貯留に関わる広い温度・圧力範囲で見積もりました。得られた溶解度は実験値や既存のモデル計算とよく一致します。また、水がハイドレートとして析出する条件では、ハイドレートができない(準安定な水溶液と共存する)と仮定した場合に比べて溶解度がさらに下がることも確かめました。

面白いのは、溶解度を表す「単位」の問題です。上の図は、計算した水の溶解度を温度と圧力の関数として示したもので、左は慣例的に使われるモル分率、右はモル濃度(単位体積あたりの水の量)で表しています。モル分率で見ると、気体状態の CO2 を圧縮したときに溶解度が下がるという、一見奇妙な振る舞いが現れます。しかしこれは、圧縮で CO2 分子そのものが増えて分母が大きくなるための見かけ上の効果で、モル濃度で表すと消えてしまいます。モル濃度による表し方は、溶解度の温度・圧力依存性を分子間相互作用の言葉で理解しやすくするだけでなく、水による腐食の駆動力と関連づけやすいという利点もあります。

「どの単位で見るか」を変えるだけで、現象の見え方がすっきりする——統計力学の視点が、ハイドレートによる閉塞や腐食を防ぐ CO2 輸送・貯留技術の基礎データにつながる仕事です。液体 CO2 とハイドレートの相挙動に関する前回の論文とあわせて読んでいただくと、全体像がつかみやすいと思います。

  • H. Tanaka, M. Matsumoto, T. Yagasaki, M. Takeuchi, and T. Kono, “Molecular Insights into Water Solubility in Fluid Carbon Dioxide for CCS Applications,” Energy & Fuels, 40, 23427–23435 (2026).
  • DOI:10.1021/acs.energyfuels.6c04094