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氷多形の分子間振動運動の役割について III. 負の熱膨張に伴うモード特性

水を冷やすと4℃以下で膨張しはじめることは、水の変わった性質として有名ですが、0℃まで冷やすと氷になり、その先は冷やすほど体積は小さくなります。ところが、実は氷になってからも、温度を非常に低くすると、絶対温度60 K以下で再び膨張が始まります。この論文では、なぜ極低温の氷が膨張しはじめるのか、その機構を明らかにしています。氷と水はどちらも冷やすと膨張しはじめますが、そのメカニズムは全く異なります。 Tanaka, H., Yagasaki, T. & Matsumoto, M. On the role of intermolecular vibrational motions for ice polymorphs. III. Mode characteristics associated with negative thermal expansion. J. Chem. Phys. 155, 214502 (2021) https://doi.org/10.1063/5.0068560

水素無秩序氷の異常な均質性とその起源について

水素無秩序氷の中では、ひとつひとつの水分子はさまざまな方向を向いており、ある水分子と周囲の水分子の間の相互作用は引力(相互作用エネルギーが低い)の場合も斥力(同・高い)の場合もあります。ある水分子と、周囲の多数の水分子の間の相互作用は、すぐ近くにいる水分子の向きに最も大きな影響を受けそうに思えます。ところが、実際には、近くの水分子の向きが引力的であっても斥力的であっても、周囲すべての水分子との相互作用はほぼ同じ値になることが計算と実験から明らかとなっています。まるで、近距離にいる分子と遠距離にいる多数の分子が、互いに申しあわせて、全体としていつも同じエネルギーになるように調節しているように見えますが、そんな調節機構がどうやって氷の中に組み込まれているのでしょうか。これを謎解きしたのがこの論文です。 Matsumoto, M., Yagasaki, T. & Tanaka, H. On the anomalous homogeneity of hydrogen-disordered ice and its origin. J. Chem. Phys. 155, 164502 (2021) https://doi.org/10.1063/5.0065215

氷の結晶を生成する新アルゴリズム

我々のグループの新しい論文が出版されました。 氷の中に微量に溶けこんだ分子のふるまいを調べたり、新しい結晶構造を探す研究で、非常にたくさんの分子からなる氷の計算機シミュレーションの需要が高まっています。 通常の結晶とは異なり、氷の結晶のなかの水分子は向きがそろっていません。計算機シミュレーションで氷を扱う場合には、分子の向きがランダムになった結晶構造を適切に生成する必要があります。 我々は、新しい結晶構造生成アルゴリズムを考案しました。これまでの手法に比べて格段に速く、しかもその差は分子数が多い構造ほど際立ちます。原理的に、これ以上速いアルゴリズムは望めません。このアルゴリズムは、氷構造生成ソフトウェアGenIceの最新版で利用できます。 Matsumoto, Masakazu, Takuma Yagasaki, and Hideki Tanaka. 2021. “Novel Algorithm to Generate Hydrogen-Disordered Ice Structures .” Journal of Chemical Information and Modeling, https://doi.org/10.1021/acs.jcim.1c00440.